大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和59年(ワ)12863号 判決 1986年2月07日

原告

原輝夫

ほか三名

被告

野尻健介

ほか一名

主文

一  被告野尻健介は、原告原輝夫に対し八六万〇三八〇円、原告原裕子、同原京子に対し各一二万円、及び右各金員に対する昭和五九年一月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告野尻則子は、原告原輝夫に対し四〇万九三八〇円、原告原裕子、同原京子に対し各一二万円、及び右各金員に対する昭和五九年一月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告原輝夫、同原裕子、同原京子のその余の請求及び原告原雄一の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告原輝夫と被告野尻健介の間においては、同原告に生じた費用の二分の一を同被告の、同被告に生じた費用の八分の一を同原告の、その余を各自の各負担とし、原告原輝夫と被告野尻則子の間においては、同原告に生じた費用の四分の一を同被告の、同被告に生じた費用の八分の一を同原告の、その余を各自の各負担とし、原告原裕子、同原京子と被告らの間においては、同原告らに生じた費用の二分の一を被告らの、被告に生じた費用の四分の一を同原告らの、その余を各自の各負担とし、原告原雄一と被告らの間においては、被告らに生じた費用の四分の一及び同原告に生じた費用を同原告の、その余を被告らの各負担とする。

五  この判決は、主文第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告原輝夫(以下「原告輝夫」という。)に対し一〇〇万二一二〇円、原告原裕子(以下「原告裕子」という。)、同原京子(以下「原告京子」という。)、同原雄一(以下「原告雄一」という。)に対し各二八万七五〇〇円、及び右各金員に対する昭和五九年一月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五九年一月一三日午後二時五分ころ

(二) 場所 東京都調布市仙川町二丁目九番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 普通乗用自動車(多摩五八り四八六七)

右運転者 被告野尻健介(以下「被告健介」という。)

(四) 被害車両 普通乗用自動車(相模五六た九一〇四)

右運転者 原告輝夫

右所有者 原告輝夫

(五) 事故態様 被告健介は、加害車両を運転して、甲州街道をつつじケ丘方面から新宿方面に向かつて進行中、本件交差点に差しかかつた際、進行方向の信号機が赤になつたにもかかわらず、そのまま直進して交差点内に進入したため、左方道路から青信号に従つて同交差点に進入して右折しようとした被害車両の右側面に加害車両の左前部を衝突させた。

(右事故を以下「本件事故」という。)

2  責任原因

(一) 被告野尻則子(以下「被告則子」という。)は、加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(二) 被告健介は、赤信号を無視して停止を怠るなどの過失により本件事故を惹起したものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

3  原告らの受傷及び治療経過

本件事故により、原告輝夫は頸椎捻挫、原告裕子は腰部捻挫、原告京子は前額部打撲、鼻出血、原告雄一は頭部打撲の各傷害を負い、原告輝夫は昭和五九年六月一八日まで通院して治療を受け、その余の原告らはいずれも通院治療三九日間(実治療日数四日間)を要した。

4  損害

(一) 原輝夫の損害

(1) 治療費 五万二八八〇円

原告らの右通院の治療費として右金額を要したが、原告裕子は、原告輝夫の妻、原告京子、同雄一は原告輝夫の子であつて、いずれも原告輝夫の扶養家族であるから、右治療費は原告輝夫の損害となる。

(2) 休業損害 一七万五七四〇円

原告輝夫は、本件事故当時、ゴルフ指導員として稼働し、事故前三か月間におけるゴルフスクール代を除く収入は六〇万二〇一〇円であつたところ、前記受傷のため十分稼働できず、事故後三か月間においてはゴルフスクール代を除き四二万六二七〇円の収入しか得られず、その差額である一七万五七四〇円の休業損害を被つた。

(3) 代車代 一三万八〇〇〇円

原告輝夫は、被害車両が本件事故で損傷したため代車を使用し、代車料として右金額を要した。

(4) 被害車両物損代 二五万三〇〇〇円

被害車両は本件事故で損傷したが、その損害額は右金額となる。

(5) 慰藉料 二五万円

原告輝夫の前記傷害の内容、程度、通院治療の経過等に照らすと、同原告の傷害に対する慰藉料としては、右金額が相当である。

(二) 原告裕子、同京子、同雄一の損害(慰藉料) 各二五万円

原告裕子、同京子、同雄一の前記傷害の内容、程度、通院治療の経過等に照らすと、同原告らの傷害に対する慰藉料としては、右金額が相当である。

(三) 弁護士費用 合計二四万五〇〇〇円

原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その報酬として、原告輝夫において一三万二五〇〇円、原告裕子、同京子、同雄一において各三万七五〇〇円を支払う旨約した。

5  よつて、原告らは、被告ら各自に対し、原告輝夫において一〇〇万二、一二〇円、原告裕子、同京子、同雄一において各二八万七五〇〇円、及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和五九年一月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認め、(五)のうち、被告健介が、加害車両を運転して、甲州街道をつつじケ丘方面から新宿方面に向かつて進行中、本件交差点に差しかかつた際、進行方向の信号機が赤になつたにもかかわらず、そのまま直進して交差点内に進入したため、左方道路から同交差点に進入して右折しようとした被害車両の右側面に加害車両を衝突させたことは認め、被害車両が黄信号に従つていたこと及び加害車両の左前部を衝突させたことは否認する。

2  同2(一)の事実中、被告則子が加害車両を所有していることは認めるが責任は争う。

同(二)のうち、被告健介に信号違反の過失があることは認めるが、責任は争う。

3  同3の事実は不知。なお、本件事故直後、原告らは傷害がなかつた旨述べており、念のため原告輝夫を除く原告らが病院で診察を受けたところ、レントゲン検査及び脳波検査の結果も異常がなかつたものである。

4  同4の事実はいずれも不知。

5  同5の主張は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

被告健介は、対面信号が青から赤に変わつたことに気付くのが遅れ、急制動の措置をとつたものの間に合わず、加害車両を本件交差点に進入させてしまい、被害車両の右側面に加害車両の右前部を衝突させてしまつたもので、被告健介にも信号違反の過失があるが、原告輝夫は、本件交差点を右折するにあたり、交差点の中心の直近の内側を徐行しなければならないにもかかわらず、交差点入口からいきなり斜めに進路をとり右折しようとしたもので、このような不適法な右折方法をとつた原告輝夫の過失も本件事故の一因であるから、原告輝夫の右過失を斟酌して三割の過失相殺をするのが相当である。

なお、被告健介は、本件事故により、加害車両を破損され、その修理費用として一八万六三五〇円を支出しているので、これを事情として考慮すべきである。

2  弁済

被告健介は、原告らの本件請求にかかる分以外の治療費として五万六〇八〇円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、原告輝夫の過失は否認し、過失相殺の主張は争う。

2  同2の事実は認める。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし(四)の事実及び(五)のうち、被告健介が、加害車両を運転して、甲州街道をつつじケ丘方面から新宿方面に向かつて進行中、本件交差点に差しかかつた際、進行方向の信号機が赤になつたにもかかわらず、そのまま直進して交差点内に進入したため、左方道路から同交差点に進入して右折しようとした被害車両の右側面に加害車両を衝突させたこと、同2(二)の事実中、被告健介に信号違反の過失があることはいずれも当事者間に争いがない。

右の事実によれば、被告健介には、民法第七〇九条の規定に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任があることが明らかである。

また、被告則子が加害車両を所有していることは当事者間に争いがないから、他に特段の事情の認められない本件においては、同被告は加害車両を自己のため運行の用に供していた者であると認めるのが相当であり、したがつて、同被告には自賠法第三条の規定に基づき、本件事故によつて生じた人身損害について賠償すべき責任があるものというべきである。

二  次に、過失相殺の主張について判断すると、本件全証拠によるも、原告輝夫に被告ら主張のような不適法な右折方法をとつた過失があることを認めるに足りないから、過失相殺の抗弁は採用することができない。

三  続いて、原告らの受傷及び治療経過について判断する。

原告輝夫本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし七及び原告輝夫本人の尋問の結果によれば、本件事故により、原告輝夫は頸椎捻挫、原告裕子は腰部捻挫、原告京子は前額部打撲、鼻出血の各傷害を負い、至誠会第二病院に、原告輝夫は昭和五九年一月一七日を第一回として同日から同年六月一八日までの間に六回通院して治療を受け、原告裕子、同京子はいずれも同年一月一三日を第一回として同日から同年二月二〇日までの間に四回通院して治療を受けたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

一方、原告輝夫本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第三号証の四及び原告輝夫本人の尋問の結果によれば、原告雄一は、原告裕子、同京子と同様に通院して診察治療を受けたが頭部打撲の疑いとの診断を受けたのみで明確な傷害があるとの診断を受けるには至らなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はなく、そのほか原告雄一は本件事故により傷害を負つたことを認めるに足りる確実な証拠はない。そうすると、原告ら主張の損害中、原告雄一の傷害を前提とする同原告分の慰藉料及び弁護士費用は本件事故と相当因果関係がないものというべきであるが、ただ、右の証拠によれば、同原告は昭和五七年三月二四日生まれで本件事故当時満一歳の幼児であつて、その傷害の有無について医師の診察を受ける必要があつたものと認められるから、後に認定する同原告分の治療費(原告輝夫の出捐による損害となる)については、本件事故のためやむをえず支出したものとして、本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

四  進んで、損害について判断する。

1  原告輝夫の損害

(一)  治療費 五万二八八〇円

前掲甲第四号証の一ないし七及び原告輝夫本人の尋問の結果によれば、原告らの前示の通院の治療費として右金額を要したこと、原告裕子は、原告輝夫の妻、原告京子、同雄一は原告輝夫の子であつて、いずれも原告輝夫の扶養家族であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、右の治療費を原告輝夫の損害として認めることができる。

なお、右認定の治療費のほかに、五万六〇八〇円の治療費を要し、これを被告健介において支払ずみであることは当事者間に争いがないが、前示のとおり、本件においては過失相殺の主張を採用しないから、右の既払の点は原告ら主張の損害額の認定に消長を来すものではない。

(二)  休業損害 一四万六五〇〇円

原告輝夫本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第六号証の一ないし八及び原告輝夫本人の尋問の結果によれば、原告輝夫は、本件事故当時、そしがや第二ゴルフ場にゴルフ指導員(レツスンプロ)として勤務し、個別客に対する技術指導(個人レツスン)及びゴルフスクールにおける教授を行つていたところ、前示の受傷のため、昭和五九年二月ころまで十分に稼働することができず、基本給及びゴルフスクールにおける教授料の収入には影響がなかつたものの、個人レツスン料の収入が昭和五八年一〇月は一八万七五〇〇円、同年一一月は二〇万七五〇〇円、同年一二月は一四万八〇〇〇円であつたのに対し、本件事故発生の日を含む昭和五九年一月は一一万九〇〇〇円、同年二月は九万六五〇〇円に低下したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、原告輝夫は、本件事故による休業損害として、右の個人レツスン料の昭和五八年一〇月同年一二月までの三か月間の平均月額一八万一〇〇〇円と右昭和五九年一月分及び同年二月分との各差額(一月分差額六万二〇〇〇円、二月分差額八万四五〇〇円)の合計額である一四万六五〇〇円の損害を被つたものと認めることができる。

(三)  代車料 一三万八〇〇〇円

原告輝夫本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第五号証の一ないし四及び原告輝夫本人の尋問の結果によれば、原告輝夫は、被害車両が本件事故で損傷したため、昭和五九年一月一五日から二月二九日までの間、訴外古賀学から代車を借用し、代車料として右金額を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  被害車両物損代 二五万三〇〇〇円

被害車両が原告輝夫の所有であることは当事者間に争いがなく、原告輝夫本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第七号証及び原告輝夫本人の尋問の結果によれば、被害車両は本件事故で損傷し、結局、修理をしないまま廃車にされたこと、有限会社入間自動車による被害車両の修理費の見積額は右金額であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、本件においては、被害車両の本件事故直前における時価額が右修理見積額より低額であることを窺わせる事情は認められないから、原告輝夫は、被害車両の損傷により右金額の損害を被つたものというべきである。

(五)  慰藉料 一五万円

原告輝夫の前記傷害の内容、程度、通院治療の経過等に照らすと、同原告の傷害に対する慰藉料としては、右金額をもつて相当と認める。

(六)  以上の原告輝夫の損害は合計七四万〇三八〇円となり、このうち人身損害分は三四万九三八〇円となる。

2  原告裕子、同京子の損害(慰藉料) 各一〇万円

原告裕子、同京子の前記傷害の内容、程度、通院治療の経過等に照らすと、同原告らの傷害に対する慰藉料としては、右金額をもつて相当と認める。

3  弁護士費用 被告健介に対する分 合計一六万円

被告則子に対する分 合計一〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件事案の難易、審理の経過、前示認容額その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、被告健介に対する関係では、原告輝夫分一二万円、原告裕子、同京子分各二万円が相当と認められ、被告則子に対する関係では、右のうち原告輝夫分六万円、原告裕子、同京子分各二万円が相当と認めらる。

4  なお、原告雄一が本件事故により傷害を負つたとは認められず、同原告の慰藉料及び弁護士費用が相当因果関係のある損害とは認められないことは前示のとおりである。

したがつて、原告雄一の本訴請求は理由がなく棄却を免れない。

五  以上によれば、原告輝夫、同裕子、同京子の本訴請求は、被告健介に対し、原告輝夫において八六万〇三八〇円、原告裕子、同京子において各一二万円、被告則子に対し、原告輝夫において四〇万九三八〇円、原告裕子、同京子において各一二万円、及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和五九年一月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、右原告らのその余の請求及び原告雄一の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例